先日、同業者からこんな相談を受けました。
「海外のカビ処理システムを導入してカビ処理をした。建材の材料水分は30%まで下げ、さらにパーティクルカウンター(微粒子計測器)で空間の浮遊粉塵量を測って数値が良好だったから検収したのに、すぐにカビが再発してクレームになってしまった。なぜだろう?」
しっかりとマニュアル通りに施工し、機械の数値もクリアしたはずなのに再発してしまう。施工する側としては高い講習代金を支払って導入したシステムなのに。。。と困っちゃいますよね。
しかし、カビの専門家の視点から見ると、この検収方法には「2つの大きな落とし穴」があります。今回はカビ処理のプロなら絶対に知っておきたい、カビ再発の本当の理由について分かりやすく解説します。
落とし穴1:パーティクルカウンターでは「カビ」は測れない
まず、検査に使ったという「パーティクルカウンター」。これは空気中に漂う目に見えない微粒子(ホコリなど)の数をカウントする機械なんですね。
確かにカビの胞子も微粒子の一部ですが、この機械は「その微粒子がカビなのか、ただのホコリなのか、衣服の繊維なのか」を一切区別できません。 つまり、数値が良かったというのは「たまたまその部屋の空気にホコリが少なかった」というだけであり、「カビが死滅した」ことの証明には全くならないのです。
さらに言えば、空間のホコリが少ないことと、建材の表面や奥深くで「これからカビが育つかどうか」は全くの別問題です。
なのでカビ処理後にパーティクルカウンターで空間の清浄度を測定なんて言うのはカビ処理に関しては全く意味がないと言い切れると思います。
落とし穴2:「水分の量」と「カビが使える水」は全く違う
もう一つの問題が「材料水分を30%まで下げた」という部分です。 建材に針を刺して測る「材料水分計」は、建材の中にある【水分の総量】を測る機械です。針を刺さないで建材に当てるだけの材料水分計も同じです。
カビの増殖において重要なのは全体の水分量ではないんです。「その水が、カビにとってゴクゴク飲める(使える)水かどうか」がすべてなんです。
材料の中の水分には、大きく分けて2種類あります。(より専門的な記事はコチラ)
- 自由水(カビが自由に使える水): カビが生命活動や増殖のために直接利用できる水。
- 結合水(カビが使えない水): 建材や物質の成分と強く結びついていて、カビが奪い取れない水。
この「カビが使える自由水の割合」を示す指標こそが「水分活性(Aw)」なんです。
建築物のカビ処理を仕事として行うには水分活性の理論は絶対に必要な考え方になります。
分かりやすい例え:「全財産」と「財布の中の現金」
「お金」に例えてみると分かりやすいですかね?
- 材料水分 = あなたの全財産(総額)
- 結合水 = 定期預金(すぐには引き出せない・使えない)
- 自由水(水分活性) = 財布の中の現金(いつでも自由に使える)
- カビ = お金を使いたい浪費家
「材料水分を30%まで下げた」というのは、「全財産が減った」という状態にすぎません。 もし、その残った30%のお金が「すべて財布の中の現金(自由水)」だったらどうなるでしょうか?浪費家(カビ)は喜んでその現金を使い込み、あっという間に増殖してしまいます。
食品で考えるとさらに明確です。 「水分が40%のスポンジケーキ」と「水分が40%の生ハム」。どちらも水分の総量(材料水分)は同じですが、生ハムは塩分が水分と強く結びついている(結合水になっている)ため、カビは生えません。一方、スポンジケーキは自由水だらけなので、すぐにカビが生えてしまいます。
なんか分かりにくいですか??僕も簡単に説明といわれると難しいんですが。
なぜ「材料水分30%・粉塵少」でもカビが再発したのか?
木材やコンクリートなどの建材は、生ハムのように水分を「結合水」として強く閉じ込めておく力がありません。つまり、建材に残っている水分は、そのほとんどが「カビが自由に使える水(自由水)」になってしまいます。
カビは一般的に、水分活性(カビが使える水の割合)が「0.80」以上あると活発に増殖し、「0.60」でも生き延びる強靭な種類(耐乾性カビ)がいます。 冒頭の相談者のケースだと、材料水分計の数値上で30%まで下げ、空間のホコリを減らしたとしても、建材にはカビの増殖限界である「水分活性0.60〜0.80」を余裕で上回る【自由水】が残っていたため、再発してしまったというわけです。
まとめ:本当のカビ対策とは?
「海外のシステムを使った」「空間のホコリが減った」「材料水分が下がった」。これらは一見すると安心できそうな言葉ですが、カビの生態という科学的な視点から見ると、再発を防ぐ根本的なエビデンス(証拠)にはならないんです。
重要なのは、「建材の水分活性(カビが使える水)を、カビが増殖できないレベルまで確実に奪い去ること」、そしてホコリの数ではなく「実際のカビ菌数を測定すること」です。
漠然とした数値やシステム。資機材の派手さ、なんか意味も分からないまま納得する講習に頼るのではなく、「水分活性」という科学的根拠を理解してコントロールすることこそが、クレームを出さない本物のカビ処理技術と言えるのではないでしょうか?
僕の個人講習(カビ対策編)を受講してくれた方にはこのあたりの概念や、簡単に水分活性を測定する方法などすべてを包み隠さずお伝えします。
カビ処理を依頼する方も依頼する業者さんがどれほどの知識を持っていてどれほどの施工をしてくれるのか?しっかり調べてから依頼することが大切だと思います。
カビの黒ずみが白くなったからOK。こんないい加減なカビ処理はあり得ませんし、材料水分や浮遊粉塵量だけで「問題ない」と言い切る施工も「???」とならざるを得ません。
決して安くはない施工費ですからしっかりした業者さんに依頼するのがいいと思います。

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