「白木漂白」を化学する。

最近、ホームセンターやネットショップでも「白木漂白剤」や「カビ取り漂白剤」といった製品をよく目にするようになりました。一般の方でも手軽に木部を白くできる時代になりましたが、僕たちプロの掃除屋さんが現場で行っているのは、単なる「漂白」ではありません。なかなか奥深い白木漂泊の世界のほんの入り口程度ですが考えていきたいと思います。

古来より日本建築で受け継がれてきた「あく洗い(灰汁洗い)」。 これを現代の化学の視点で解き明かすと、非常にロジカルな化学反応の連続であることがわかります。

今回は、同業のプロフェッショナルの方に向けて、少しマニアックな視点で「木部再生の化学メカニズム」について書いてみたいと思います。

相変わらずですが、僕は「面白い!!」って思ってるんですけど、今回の記事も「面白い」って感じてくれるお掃除屋さんは一握りかな?とは思ってます(笑)


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木部が黒ずんで見える原因は、主に「日焼け(リグニンの劣化)」「カビ・菌類」「あく(タンニンや樹脂の染み出し)」の複合汚染です。

これらを落とすためにプロは様々な薬剤を使い分けます。漂白だもんハイターでいいんでしょ?ミヤキのあれでいいんでしょ?とはならないんですね。。なぜ特定の薬剤を使い分けるのか。その理由を整理します。

■ ジクロロイソシアヌル酸ナトリウム(NaDCC)の有用性

一般的に「塩素系」というと次亜塩素酸ナトリウム(NaClO)がメジャーですけど、木部洗いにおいて次亜は諸刃の剣です。アルカリ性が強すぎて木の繊維(セルロース)を破壊し、表面が毛羽立ったり、残留塩素による黄変のリスクがあります。

これに対して、ジクロロイソシアヌル酸ナトリウムは、水に溶かすと中性~弱酸性を示します。

  • メリット: 木の繊維を傷めにくい。有効塩素の放出が緩やかで、長時間効果が持続する。
  • 用途: 繊細な和室の白木や、繊維が弱っている古材の「マイルドな漂白」に最適です。

■ 過酸化水素(H2​O2​)+ アルカリ助剤の爆発力

いわゆる2液型(A剤・B剤)の主役の方です。35%程度の過酸化水素水に、水酸化ナトリウムなどの強アルカリ剤を反応させます。助剤は状況や材質、仕上げはどうしたいのか?などで色々なものを選択します。必ずしも水酸化ナトリウムというわけではありません。

  • 化学反応: アルカリと触れることで過酸化水素が急激に分解し、大量の「活性酸素」が発生します。あの発泡は、汚れを物理的に押し出す力であり、強力な酸化力の証です。
  • 用途: 深いカビ、濃いシミ、一気に白さを取り戻したい外壁や玄関周りなど「攻め」の洗浄に使います。(あくまでも僕が勝手に考えてるイメージなので悪しからず)

ここがプロの腕の見せ所です。単に汚れを落とすだけでなく、木の風合いを取り戻すために必要なのが「pHの急激な変化(pHスイング)」です。

Step 1:アルカリ側(pH 11~13)での「膨潤」

まずアルカリ性の薬剤を塗布すると、木材の繊維が緩み、膨らみます。これを「膨潤(ぼうじゅん)」と言います。 毛穴が全開になったような状態で、内部に浸透した「あく」や汚れを浮き上がらせます。しかし、この状態の木材はヌルヌルしており、色は黄色っぽく(アルカリ焼け)、非常に脆い状態です。

温泉とかに行くと浴槽のヘリだけ木材の浴槽ってありますよね?めちゃくちゃヌルヌルするじゃないですか。「滑りやすいので気を付けてね」って注意書きがあるやつ。あの状態だと思ってくれるとイメージしやすいですかね?

Step 2:酸性側(pH 2~3)への急降下「収斂と還元」

ここで、酸性薬剤(フッ化水素酸、シュウ酸、リン酸など)を投入します。これを単なる「中和」だと思っていませんか? 実はもっと重要な2つの意味があります。

  1. 物理的な引き締め(収斂作用): アルカリでふやけた繊維を、急激に酸性に振ることで「キュッ」と引き締めます。これにより、木本来の硬さと滑らかな手触りが戻ります。
  2. 化学的な還元(漂白の仕上げ): 木部の黒ずみや釘周りの黒いシミは、鉄分とタンニンが結合した「タンニン酸鉄」であることが多いです。酸化剤(過酸化水素など)では落ちきらないこの黒ずみを、還元剤である酸が「無色の可溶性塩」に変えて消し去ります。

【イメージ図:pHの推移】 通常の掃除が「中性付近」で行われるのに対し、あく洗いは以下のような激しいグラフを描きます。

  • [開始] アルカリ性(pH12)でガツンと汚れを抜く
  • [直後] 酸性(pH3)へ急降下させ、繊維を締める この高低差(スイング幅)が大きければ大きいほど、仕上がりの明度と手触りに差が出ます。

よく灰汁洗い後は木部がガサガサになるのでペーパーで撫でて仕上げるとかありますけど、この辺のpHのスイングを上手に使いこなせると仕上がりが結構よくなると思います。


化学反応を利用する以上、誤った知識は取り返しのつかない事故を招きます。

× NG例1:サンダー掛け後の不用意な薬品塗布

「汚れが落ちないから」と部分的にサンダーを掛け、その上から薬品を塗るのは非常に危険です。危険というかムラになりやすかったり、うまくいかない原因になりかねません。

  • 理由: サンダーを掛けた部分は木の導管が剥き出しになり、吸水率が異常に高くなっています。そこに薬品を塗ると、その部分だけ激しく吸い込み、「薬シミ(黒ずみや過度な白化)」になってしまいます。
  • 対策: 薬品を使うなら全面薬品のみ。削るなら全面削る。混ぜる場合は、けっこう高度なペーパーの番手調整と薬品の濃度コントロールが必要です。

× NG例2:塩素系と酸性タイプの混合(まぜるな危険)

基本中の基本ですが、現場ではつい焦ってやってしまいがちです。

  • 次亜塩素酸ナトリウム(アルカリ性)
  • 酸性洗い(酸性) これらが混ざると有毒な塩素ガスが発生します。あく洗いの現場は換気が悪い場所も多いため、必ず工程ごとに十分な水洗い(リンス)を行い、成分が残留していない状態で次の工程に移る必要があります。タオルで拭くだけとかではリンスされないので注意が必要ですね。だからって水ですすぎすぎても木が膨れたりトラブルのもとなので要注意なんですが。

「どの洗剤が一番落ちますか?」と聞かれることがありますが、これは正直正解なんてありません。状況、材質、その日の気温など様々な要因で最適解は変わってくると思います。

目の前の木が「杉」なのか「ヒノキ」なのか。築何年で、何の汚れが付着しているのか。 それを見て、

  • 「今回は過酸化水素を濃いめで、アルカリ助剤は控えめにしよう」
  • 「繊細な建具だから、ジクロロイソシアヌル酸でじっくり抜こう」
  • 「鉄分の黒ずみが酷いから、仕上げの酸はシュウ酸を少し強めに設定しよう」

こんな感じで、現場で化学的なレシピを調合できることが、プロフェッショナルの価値だと思います。 ただ白く塗るのではなく、木の呼吸を止めずに美観を取り戻す。

今回はほんのさわりだけなので具体的なことほとんど書いてませんが。(長くなりすぎるから書く気もないんですが、、、)まー白木の灰汁洗いも面白そうだよね。って思ってくれる掃除屋さんが増えてくれると楽しいな。と思い書いてみました。

特にpHのスイング(僕が勝手にそう呼んでるだけですが)の概念を知ってる人って意外と少ないんですね。知らず知らずでやってる人はそれなりにいると思いますけど。このへんの話題も「へ~そういうのあるんだ」とか感じてくれるといいなと思っています。

どうでしたか?僕は楽しい話題だと思って書きましたが、ここまで読んでくれた方は面白かったですかね?

え?つまらなかった。。。。すみません。面白くない男なんです。。

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