灯油漏れの事故は寒い時期のものだと思われがちですが、Beクリーンに灯油臭の相談が集中するのは、実は暖房を使っていない夏、とくにお盆明けの残暑の時期です。しかも最も多いのが「閉めていたはずのコックから漏れていた」というご相談。これには物理的な理由があります。
夏の灯油漏れで多い3つのパターン
北海道で長く消臭に携わってきた経験上、夏場に発生する灯油漏れは、おおむね次の3つに集約されると感じています。
- 閉めていたはずのコックの周りから、じわじわと漏れていた
- 灯油配管にできていた小さなへこみが、前触れなく割れた
- 接続部から、以前より明らかに漏れる量が増えた
3つの要因とも「何もしていないのに漏れた」という点が共通しています。お客様からは「触ってもいないのになぜ」というお声をよくいただきますが、原因は温度です。
原因1:逃げ場のない膨張が内圧に変わる「液封」
灯油を使わない時期は、屋外タンクの元弁とストーブ側のコック(もしくは室内側のコック)を閉めておくのが一般的です。ところがこの状態は、配管の一部を完全に閉じ込めた区間にしてしまいます。

液体はほとんど圧縮されません。そこに夏の日射が当たると、灯油は温度に応じて膨らもうとするのに、行き場がない。膨張しようとする力がそのまま内圧に変わります。これを配管の分野では液封(えきふう)と呼びます。
灯油の体膨張率は1℃あたりおよそ0.001。これは水の4〜5倍にあたります。密閉された水ですら温度が1℃上がるだけで約5気圧の圧力上昇が生じるとされており、灯油ではさらに大きな値になります。
実際には配管がわずかに膨らみ、溶け込んだ空気がクッションになるため計算どおりの圧力にはなりません。それでも、屋外配管が直射日光を長時間受けて20℃前後上昇すれば、パッキンの密封能力を超える圧力に達します。
つまり、コックを閉めたことが原因で、その閉めたコックから漏れるという構造です。閉じた区間の中でいちばん弱いシールがコックのパッキンなので、そこが結果的に逃がし弁の役目をしてしまうわけです。「閉めていたのに漏れた」というご相談が最も多いのは、感覚ではなく物理として正しい現象なのです。
原因2:温度が上がると灯油は漏れやすくなる
もうひとつ、見落とされやすいのが粘度です。灯油の粘度は温度が上がるほど下がります。0℃では動粘度がおよそ2mm²/sあるのに対し、40℃では1.2前後まで低下します。
これは、冬には表面張力と粘度でかろうじて止まっていた微細な隙間が、夏には同じ隙間のまま灯油を通してしまうことを意味します。
ここで大切なのは、「去年の冬は漏れていなかった」は、隙間がなかった証拠にはならないということです。隙間は以前からあり、通せる状態になったのが今、というだけのケースが少なくありません。
原因3:小さなへこみが「突然」割れる
配管のへこみは、応力が集中する箇所であると同時に、変形時に硬くなって粘りを失った箇所でもあります。そこへ、原因1で説明した内圧が日射のたびにかかります。
朝から昼にかけて圧が上がり、夜に下がる。この繰り返しは金属疲労そのもので、圧力変動の幅が最も大きくなるのが夏です。だから何の前触れもなく、夏に割れる。
銅管の場合、へこみの内側が腐食の起点になっていることもあります。割れた部材は絶対に捨てないでください。破断面の状態から、単なる劣化なのか、外力や圧力による破壊なのかを判断できる場合があります。(保険を申請して費用を捻出する際の判断材料になります。修理業者さんが来ても捨てないで残しておくのがおすすめです)
なぜ「お盆明け」に集中するのか
単純に暑いからではありません。暖房を止めてから数か月、コックを閉めっぱなしということは、内圧が上がっては下がるサイクルがずっと積み重なってきた状態です。加えてパッキンのゴムは、動かさずに圧縮されたままだと元の形に戻らなくなっていきます。
劣化の累積が最大になったところへ残暑の最高気温が重なる。お盆明けに事故が集中するのは、これで説明がつきます。
冬の灯油漏れは、原因がまったく違う
一方、冬に起きる灯油漏れは物理現象ではなく、ほぼ人が関わる事故です。
- 灯油配送業者が屋内のポリタンクに給油する際、大量にこぼした
- ストーブを入れ替えたあと、寒くなって初めてコックを開けたところ、ホースとコックの接続不備で噴き出した
後者は特に注意が必要です。工事をしたのは秋、事故が起きるのは冬と時間差があるため、「工事中の事故」ではなく「工事完了後の事故」として扱われます。設備業者側の保険で、この局面を補償する担保に加入しているかどうかが分かれ目になります。(施工中の事故と完工後の事故では利用できる保険が変わってくることが多いです)ストーブなどを入れ替えた場合は出来るだけ一時的な点火試験だけでなく数時間つけっぱなしにするなど工事の不備がないかしっかり確かめることが大切です。
季節によって原因が違うということは、責任の所在も、使うことになる保険も違うということです。
灯油が漏れてしまったときの初動
まず安全の確保を
- 火気は厳禁です。ストーブや給湯器の使用を止め、喫煙も避けてください
- 窓を開けて換気してください。ただし送風機などで他の部屋へ空気を送ると、臭気を家全体に広げてしまいます
- 漏れが続いている場合は元弁を閉めてください
やっておくとよいこと
- 写真を撮る。破損した箇所のアップ、灯油が広がった範囲、部屋全体。日付がわかる形で残してください
- 壊れた部材は捨てない。原因の判断材料になります
- 気づいた日時を記録する。後から思い出すのは想像以上に困難です
やらないほうがよいこと
- 消臭スプレーや芳香剤で上書きしない。臭いが混ざると、灯油がどこにどれだけ残っているかの判断が難しくなります。調査にも工事にも不利に働きます
- 拭き取っただけで解決したと考えない。表面の液体は取れても、建材にしみ込んだ分は残ります。数日たって臭いが戻るのはこのためです
- 原因を自己判断で断定しない。特に夏の漏れは、見た目だけでは液封なのか単なる劣化なのか判別できません
保険について
灯油漏れによる室内の汚損や臭気の除去費用は、状況によって保険の対象となる場合があります。どの保険を使うことになるかは、原因によって変わります。
- 設備業者の作業が原因の場合は、その業者が加入する賠償責任保険
- 原因が特定できない自宅の配管破損などは、ご自身の火災保険
ここで一点、はっきりお伝えしておきたいことがあります。「事故があったことにして申請できないか」というご相談をいただくことがありますが、実際と異なる原因を申告すると、判明した時点で虚偽申告として契約解除や保険金の不払いにつながります。本来支払われたはずの請求まで失うことになりかねません。
何かをぶつけたことにできないか?誰かが壊したことにできないか?などご相談を受けることが多いですが、保険詐欺への加担は一切できかねますので、僕が出来るのはありのままの現状を書類にまとめるだけです。この書類をもって保険会社へ申請していただき、納得のいく結果が出ればBeクリーンで作業着工となります。
そもそも、原因が特定できていないこと自体は不利ではありません。「経年劣化である」と立証する責任は保険会社の側にあります。事実のまま申請していただくのが、結果的にいちばん強い進め方です。
Beクリーンでは、調査で確認した事実にもとづく報告書と見積書をお出ししています。漏洩の範囲や残留の程度を数値で記録しておくことは、必要な工事の範囲を説明するうえでも有効です。
灯油の臭いは、拭き取りでは消えません
灯油は建材にしみ込みます。とくに夏場は粘度が下がっているぶん、より深く浸透します。表面を拭き、換気をして一度は臭いが引いたように感じても、数日から数週間で戻ってくるのはこのためです。
また、高温下では軽い成分が先に揮発し、重い成分が建材の中に残ります。初期の強い臭いは比較的早く弱まるのに、その後の残り臭が長く続くという、夏特有の経過をたどることがあります。
本当に必要なのは、どこにどれだけ残っているかを把握したうえで、浸透した部分そのものに対処することです。弊社では臭気の測定と成分の把握を行ったうえで、除去範囲を決めています。
灯油の臭いでお困りの方へ
「拭いたのに臭いが戻る」「原因がわからない」「保険が使えるか知りたい」など、まずはご相談ください。北海道全域および全国の案件に対応しています。
執筆:加藤 大輔(株式会社Beクリーン 専務取締役)
建築物環境衛生管理技術者/IICRC-OCT/JDSA認定指導員。消臭・特殊清掃に約18年従事し、独自工法のD-ACT工法・E-MIA工法を開発。「感覚から科学へ」を掲げ、測定にもとづく消臭を実践しています。
※本記事は現場での経験と一般的な物性値にもとづく解説です。個別の事案における原因の特定には現地調査が必要です。また、保険の適用可否はご契約の約款および保険会社の判断によります。弊社は保険および法律の専門家ではありませんので、詳細はご契約の保険会社または専門家にご確認ください。

Comments