洗剤を塗布するとシュワシュワする
掃除屋さんなら水垢なんかに塩酸などを塗布するとシュワシュワ反応する現象はよく見かけると思います。
でも同じ酸性洗剤でも塗布してもシュワシュワしないものもありますよね?
シュワシュワしてないから反応していないのか?「う~ん??」
結論から言うと「必ずしもシュワシュワしてれば反応しているわけではない」となります。
酸が汚れに反応して泡が出るのは、多くの場合、炭酸ガス(二酸化炭素)が発生しているためです。これは、酸が汚れの成分である炭酸塩(例:水垢の炭酸カルシウム)と反応するときによく見られます。
化学式で表すと、例えば塩酸と炭酸カルシウムの反応は次のようになります。
2HCl (塩酸)+CaCO3 (炭酸カルシウム)→CaCl2 (塩化カルシウム)+H2O (水)+CO2↑ (二酸化炭素)
この二酸化炭素が気体となって出てくるため、シュワシュワと泡が見えるのです。クエン酸や酢酸なども、炭酸塩と反応すれば同様に泡が出ます。
具体例を見てみましょう
シュワシュワする例
酸性の液体 (例) | 汚れの成分 (例) | 反応の概要 | 化学反応式の例 (炭酸カルシウムの場合) |
塩酸 (HCl) | 炭酸カルシウム | 強酸であり、炭酸カルシウムと活発に反応して二酸化炭素を発生します。 | 2HCl+CaCO3→CaCl2+H2O+CO2 |
クエン酸 (C₆H₈O₇) | 炭酸カルシウム | 食品にも使われる比較的安全な酸ですが、炭酸カルシウムと反応して二酸化炭素を発生します。 | 2C6H8O7+3CaCO3→Ca3(C6H5O7)2+3H2O+3CO2 |
酢酸 (CH₃COOH) | 炭酸カルシウム | 食酢の主成分。炭酸カルシウムと反応して二酸化炭素を発生します。 | 2CH3COOH+CaCO3→Ca(CH3COO)2+H2O+CO2 |
硫酸 (H₂SO₄) | 炭酸カルシウム | 強酸であり、反応しますが、生成する硫酸カルシウムが難溶性のため、表面を覆って反応が鈍化することがあります。 | H2SO4+CaCO3→CaSO4+H2O+CO2 |
トイレ用酸性洗剤 (主成分が塩酸やスルファミン酸など) | 尿石 (リン酸カルシウムや炭酸カルシウムを含む) | 尿石に含まれる炭酸カルシウムと反応して二酸化炭素を発生させます。 | 2HCl (塩酸)+CaCO3 (炭酸カルシウム)→CaCl2 (塩化カルシウム)+H2O (水)+CO2 (二酸化炭素) 2NH2SO3H (スルファミン酸)+CaCO3 (炭酸カルシウム)→Ca(NH2SO3)2 (スルファミン酸カルシウム)+H2O (水)+CO2 (二酸化炭素) |
シュワシュワしない例
酸性の液体 (例) | 汚れの成分 (例) | 反応の概要 (気体発生なし) | |
塩酸、クエン酸など | 酸化鉄 (Fe₂O₃, FeOOHなど) (赤サビ) | サビを溶解させて除去しますが、この反応では通常、気体は発生しません。例えば、塩酸と酸化鉄(III)の反応では塩化鉄(III)と水が生成されます。 6HCl+Fe2O3→2FeCl3+3H2O | |
クエン酸、酢酸など | 石鹸カス (脂肪酸カルシウム、脂肪酸マグネシウム) | 水垢と混じりやすい石鹸カスは、酸によって脂肪酸とカルシウム塩 (またはマグネシウム塩) に分解されます。この過程で気体は発生しません。 | |
酸性の液体全般 | 油汚れ (脂肪、タンパク質など) | 酸は油汚れを直接分解する力は弱いですが、一部の酸はタンパク質を変性させる効果があります。しかし、炭酸ガスのような気体が発生する反応は通常起こりません。 (油汚れにはアルカリ性洗剤が効果的です) | |
ホウ酸 (H₃BO₃) など | 炭酸カルシウム | 非常に弱い酸であるため、炭酸カルシウムとの反応は非常に穏やかで、目に見えるほどの二酸化炭素ガスが発生しにくい、または反応が非常に遅いです。ただし、全く反応しないわけではありません。 | |
酸性の液体全般 | ケイ酸スケール (シリカスケール) | 鏡などに見られる非常に硬い水垢の一種で、主成分は二酸化ケイ素 (SiO₂) です。一般的な酸 (塩酸、クエン酸など) ではほとんど分解されません。フッ化水素酸のような特殊な強酸でないと反応しにくいです。(家庭での使用は危険) |
なんとなくイメージ出来ましたかね?
こんな感じで「必ずしもシュワシュワするわけでもない」というのが分かると思います。また、シュワシュワしないからと言って反応していないわけではないのも分かるかと思います。
一般的な酸性の薬品が水垢などを落とすメカニズム
以前もコラム的に書いた気がしますが、再度さらっとまとめると
水垢(主成分:炭酸カルシウム)
- 汚れの正体: 水道水に含まれるカルシウムイオンやマグネシウムイオンが、乾燥する過程で空気中の二酸化炭素などと反応し、主に炭酸カルシウム (CaCO3) や炭酸マグネシウム (MgCO3) といった水に溶けにくい化合物として析出したものです。白っぽくザラザラした硬い汚れが特徴です。
- 酸性洗剤の作用メカニズム: 酸性洗剤は、この炭酸カルシウムと化学反応を起こし、水に溶けやすい物質に変化させます。
- 例えば、塩酸 (HCl) の場合:
- CaCO3 (炭酸カルシウム)+2HCl (塩酸)→CaCl2 (塩化カルシウム)+H2 (水)+CO2(二酸化炭素)
- クエン酸 (C6H8O7) の場合:
- 3CaCO3 (炭酸カルシウム)+2C6H8O7 (クエン酸)→Ca3(C6H5O7)2 (クエン酸カルシウム)+3H2O (水)+3CO2 (二酸化炭素)
- このように、酸は水に溶けにくい炭酸カルシウムを、水に溶けやすい塩(塩化カルシウムやクエン酸カルシウムなど)に変えることで、汚れを分解・除去します。二酸化炭素ガスが発生するため、シュワシュワと泡立つことがあります。
石鹸カス・金属石鹸
- 汚れの正体:
- 石鹸カス: 石鹸の成分(脂肪酸ナトリウムや脂肪酸カリウム)が、水道水中のカルシウムイオンやマグネシウムイオンと反応してできる、水に溶けにくい脂肪酸カルシウムや脂肪酸マグネシウムのことです。これらを総称して金属石鹸とも呼びます。
- 浴室の壁や床、洗面器などに付着する白っぽくヌルヌルしたり、逆に固着したりする汚れです。
- 酸性洗剤の作用メカニズム:
- 酸性洗剤は、この水に溶けにくい金属石鹸を、比較的扱いやすい物質に分解します。
- 例えば、脂肪酸カルシウム ((RCOO)2Ca、ここでRは炭化水素基) と酸 (H+) の反応を簡略化して示すと
- (RCOO)2Ca (脂肪酸カルシウム)+2H+ (酸由来の水素イオン)→Ca2+ (カルシウムイオン)+2RCOOH (遊離脂肪酸)
- この反応により、水に不溶性の金属石鹸が、カルシウムイオンと遊離脂肪酸に分解されます。遊離脂肪酸は、元の金属石鹸よりは水で洗い流しやすくなったり、物理的な力で落としやすくなったりします。 ただし、遊離した脂肪酸自体も水に溶けにくい場合があるため、酸で分解した後に界面活性剤を含む洗剤で洗い流したり、物理的にこすり洗いしたりすることが効果的です。
まとめとしては
水垢(炭酸カルシウム)に対しては、化学反応によって水溶性の塩とガスに分解することで除去します。
石鹸カス・金属石鹸(脂肪酸金属塩)に対しては、化学反応によって金属イオンと遊離脂肪酸に分解し、汚れの性質を変えることで除去しやすくします。
ってことですね。
こんなことを知らなくてもお掃除は出来るんですが、しっていると日々の作業がちょっと楽しく感じるかも?と僕は思っています。
「お!今分解した?分離した?浮いてきた?」なんて一人で実況しながら施工をする(笑)
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