お掃除の中での酸化と還元

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見出しは大袈裟ですね(笑)

お掃除屋さんとして掃除をしていて、洗剤なんかに興味が出てくると「酸とアルカリ」「中和?」「漂白」「酸化と還元」とかちょっと化学チックなワードが突然目の前に現れ「中学生で習った気がするけど覚えていないな」なんてことがあるかと思います。

洗浄理論の講義なんかで話していても受講されている方の8割くらいが眠ってしまうジャンルです(笑)僕の話し方に抑揚がないのもダメなんでしょうけど。

それで今日は「酸化と還元」について書いてみようと思います。誰かの役に立てばいいなと思います。

酸化と還元は、化学反応における電子のやり取りを表す重要な概念で、日常生活でも様々な現象に関わっています。少し具体例を交えて書いてみます。

基本的な考え方:電子のやり取り

  • 酸化(さんか): 物質が電子を失う反応です。
  • 還元(かんげん): 物質が電子を受け取る反応です。

この2つの反応は、必ず同時に起こります。一方の物質が電子を失えば、必ず別の物質がその電子を受け取るからです。このため、酸化還元反応は常にペアで起こります。

より具体的な説明:酸素、水素、酸化数

電子のやり取りという基本的な考え方に加えて、より具体的な指標として、酸素、水素、酸化数を用いることもできます。

  • 酸素との結びつき:
    • 酸化: 物質が酸素と結びつく反応です。(例:鉄が錆びる、炭が燃える)
    • 還元: 物質が酸素を失う反応です。(例:酸化鉄から鉄を取り出す)
  • 水素との結びつき:
    • 酸化: 物質が水素を失う反応です。
    • 還元: 物質が水素と結びつく反応です。
  • 酸化数: 原子やイオンが持つ電荷の数を表す指標です。
    • 酸化: 酸化数が増加する反応です。
    • 還元: 酸化数が減少する反応です。

酸化数は少し複雑な概念ですが、より詳しく反応を理解するのに役立ちます。

身近な例

  • 鉄の錆び(酸化): 鉄(Fe)が空気中の酸素(O₂)と結びついて、酸化鉄(Fe₂O₃、錆)になる反応です。鉄は電子を失い、酸素は電子を受け取っています。
  • 炭の燃焼(酸化): 炭素(C)が酸素(O₂)と結びついて、二酸化炭素(CO₂)になる反応です。炭素は電子を失い、酸素は電子を受け取っています。
  • 金属の精錬(還元): 酸化された金属(例えば酸化鉄)から、酸素を取り除いて金属を取り出す反応です。この際、酸化された金属は電子を受け取って還元されます。
  • 植物の光合成(還元): 植物は、二酸化炭素(CO₂)を還元して、有機物(グルコースなど)を作り出します。
  • 動物の呼吸(酸化): 動物は、有機物を酸化してエネルギーを取り出します。

1. 電子の授受

酸化と還元の最も本質的な定義は、電子の授受です。

  • 酸化: ある物質が別の物質に電子を与える反応です。酸化された物質は電子を失うため、一般的に正の電荷が増加(または負の電荷が減少)します。
  • 還元: ある物質が別の物質から電子を受け取る反応です。還元された物質は電子を受け取るため、一般的に負の電荷が増加(または正の電荷が減少)します。

この電子の移動が、酸化還元反応のエネルギー変化や物質の変化を引き起こします。

例:ナトリウムと塩素の反応

ナトリウム(Na)と塩素(Cl₂)が反応して塩化ナトリウム(NaCl)になる反応は、典型的な酸化還元反応です。

  1. ナトリウム原子(Na)は、最外殻の電子を1つ失いやすく、陽イオン(Na⁺)になります。このとき、ナトリウムは酸化されます。
  2. Na → Na⁺ + e⁻
  3. 塩素分子(Cl₂)は、電子を2つ受け取りやすく、塩化物イオン(Cl⁻)になります。このとき、塩素は還元されます。
  4. Cl₂ + 2e⁻ → 2Cl⁻
  5. 全体としての反応は以下のようになります。
  6. 2Na + Cl₂ → 2NaCl

この反応では、ナトリウムが電子を塩素に与え、ナトリウムは酸化され、塩素は還元されています。

2. 酸化剤と還元剤

酸化還元反応において、相手を酸化させ、自身は還元される物質を酸化剤といいます。逆に、相手を還元させ、自身は酸化される物質を還元剤といいます。

  • 酸化剤: 他の物質から電子を奪い取る性質を持つ物質(例:酸素、塩素、過マンガン酸カリウム)。
  • 還元剤: 他の物質に電子を与える性質を持つ物質(例:水素、金属、シュウ酸)。

上記のナトリウムと塩素の反応では、塩素がナトリウムから電子を奪い取るため酸化剤であり、ナトリウムが塩素に電子を与えるため還元剤です。

3. 酸化数の詳細

酸化数は、化合物中の原子がどれだけ電子を失っているか、または得ているかを形式的に示す数値です。酸化数の概念を使うと、複雑な反応でも酸化と還元を判断しやすくなります。酸化数のルールはいくつかありますが、主なものを以下に示します。

  • 単体の原子の酸化数は0です。(例:Na、Cl₂、O₂、Fe の酸化数は0)
  • 単原子イオンの酸化数は、そのイオンの電荷と等しいです。(例:Na⁺ の酸化数は +1、Cl⁻ の酸化数は -1)
  • 化合物中の水素原子の酸化数は、通常 +1 です。ただし、金属の水素化物(例:NaH)では -1 です。
  • 化合物中の酸素原子の酸化数は、通常 -2 です。ただし、過酸化物(例:H₂O₂)では -1、フッ化酸素(例:OF₂)では +2 です。
  • 化合物中の金属原子の酸化数は、通常正の値を持ちます。
  • 化合物を構成するすべての原子の酸化数の合計は0です。
  • 多原子イオンを構成するすべての原子の酸化数の合計は、そのイオンの電荷と等しいです。

4. 酸化数を用いた酸化還元の判断

酸化還元反応では、反応の前後で原子の酸化数が変化します。

  • 酸化: 酸化数が増加する原子を含む物質が酸化されます。
  • 還元: 酸化数が減少する原子を含む物質が還元されます。

例:酸化鉄と一酸化炭素の反応

鉄鉱石から鉄を取り出す際の反応です。

Fe₂O₃(s) + 3CO(g) → 2Fe(s) + 3CO₂(g)

各原子の酸化数を調べてみましょう。

  • Fe₂O₃: Feの酸化数は +3、Oの酸化数は -2
  • CO: Cの酸化数は +2、Oの酸化数は -2
  • Fe: Feの酸化数は 0(単体)
  • CO₂: Cの酸化数は +4、Oの酸化数は -2

反応前後で酸化数が変化している原子は、鉄(Fe)と炭素(C)です。

  • 鉄(Fe)の酸化数は +3 から 0 に減少しています。したがって、酸化鉄(Fe₂O₃)中の鉄は還元されています。
  • 炭素(C)の酸化数は +2 から +4 に増加しています。したがって、一酸化炭素(CO)中の炭素は酸化されています。

この反応では、一酸化炭素が還元剤として働き、酸化鉄を還元しています。逆に、酸化鉄は酸化剤として働き、一酸化炭素を酸化しています。

5. 酸化還元反応の量的関係

酸化還元反応では、酸化される物質が失う電子の総数と、還元される物質が受け取る電子の総数は常に等しくなります。この関係を利用して、化学反応式の係数を決定したり、反応に必要な物質の量を計算したりすることができます。

6. 酸化還元反応の応用例

酸化還元反応は、私たちの生活や産業において非常に重要な役割を果たしています。

  • エネルギー生産: 燃焼(化石燃料の燃焼など)、電池、燃料電池など。
  • 金属の精錬: 鉄、アルミニウムなどの金属を鉱石から取り出す。
  • 化学工業: アンモニア合成、硝酸合成、有機化合物の合成など。
  • 生化学: 呼吸、光合成、代謝など、生命活動の根幹をなす反応。
  • 環境: 汚染物質の分解、浄水処理など。
  • 分析化学: 酸化還元滴定など、物質の量を決定する手法。
  • 食品: 食品の酸化防止(抗酸化剤)、食品の変色反応など。

酸素系漂白剤や過酸化水素は酸化剤なの?還元剤なの?

酸素系漂白剤の主成分は、過炭酸ナトリウム(炭酸ナトリウムと過酸化水素の化合物)や過酸化水素です。これらの物質は水に溶けると過酸化水素を生成し、さらに分解して酸素を放出します。

この放出された酸素が、色素などの有機物を酸化することで、色を分解し、漂白効果を発揮します。酸化とは、相手から電子を奪う反応なので、酸素系漂白剤は酸化剤として働くことになります。

酸素系漂白剤の漂白の仕組み(簡単な例)

  1. 酸素系漂白剤が水に溶けると過酸化水素が発生します。
  2. 2Na₂CO₃・3H₂O₂ → 2Na₂CO₃ + 3H₂O₂ または H₂O₂ → H₂O₂ (in water)
  3. 過酸化水素が分解して、活性酸素(酸素ラジカルなど)や酸素を放出します。
  4. H₂O₂ → H₂O + [O] (活性酸素) または 2H₂O₂ → 2H₂O + O₂
  5. この活性酸素や酸素が、色素などの有機物に作用し、酸化させます。有機物が酸化されると、その構造が変化し、色を失うため、漂白されます。

このように、酸素系漂白剤は、酸素を放出して他の物質を酸化させることで漂白を行うため、酸化剤に分類されます。

ただ、難しいのが酸素系漂白剤は還元剤として働くこともある点です。

酸素系漂白剤の主成分である過酸化水素(H₂O₂)は、反応する相手によっては還元剤として働くこともあります。

過酸化水素は、酸素の酸化数が-1の状態です。この酸素は、より酸化数の低い状態(例えば-2のH₂O)にも、より酸化数の高い状態(例えば0のO₂)にも変化することができます。

  • 酸化剤として働く場合: 過酸化水素中の酸素原子の酸化数が減少します(-1 → -2)。この場合、他の物質を酸化させます。これが漂白の主なメカニズムです。
  • 還元剤として働く場合: 過酸化水素中の酸素原子の酸化数が増加します(-1 → 0)。この場合、他の物質を還元させます。

過酸化水素が還元剤として働く例

過酸化水素は、酸化力の強い物質に対しては還元剤として働きます。以下に具体的な例を挙げます。

  1. 過マンガン酸カリウムとの反応: 酸性条件下で、過酸化水素は過マンガン酸イオン(MnO₄⁻、マンガンの酸化数 +7)をマンガン(II)イオン(Mn²⁺、マンガンの酸化数 +2)に還元します。このとき、過酸化水素は酸化されて酸素を発生します。
  2. 5H₂O₂ + 2KMnO₄ + 3H₂SO₄ → K₂SO₄ + 2MnSO₄ + 8H₂O + 5O₂ この反応では、過マンガン酸カリウムが酸化剤、過酸化水素が還元剤として働いています。
  3. 二酸化マンガンとの反応: 過酸化水素は、触媒として働く二酸化マンガン(MnO₂、マンガンの酸化数 +4)の存在下で分解し、酸素を発生しますが、特定の条件下では、二酸化マンガンを還元することもあります。
  4. 銀イオンとの反応: 過酸化水素は、銀イオン(Ag⁺)を金属銀(Ag、酸化数 0)に還元します。 H₂O₂ + 2Ag⁺ → 2Ag + 2H⁺ + O₂ この反応では、銀イオンが酸化剤、過酸化水素が還元剤として働いています。

まとめ

酸素系漂白剤の主成分である過酸化水素は、一般的には酸化剤として漂白効果を発揮しますが、反応する相手が非常に強い酸化力を持つ物質の場合には、還元剤として働くこともあります。ただし、日常生活における漂白の場面では、主に酸化剤としての性質が利用されています。

なにやら難しいことが続きました。それでは僕たち掃除屋さんに関係のある「お掃除での酸化還元ってどんなもの?」みたいな部分のお話を。

お掃除における酸化の利用

酸化反応を利用したお掃除は、有機物の汚れ(食べこぼし、油汚れ、カビ、細菌など)を分解するのに効果的です。酸化剤は、汚れから電子を奪い取ることで、汚れの構造を変化させ、水に溶けやすくしたり、無害な物質に変えたりします。

主な酸化系の洗剤と作用:

  • 酸素系漂白剤(過炭酸ナトリウム、過酸化水素):
    • 主成分が分解して発生する活性酸素が、色素や有機物の汚れを酸化して分解します。
    • 衣類のシミ抜き、洗濯槽の洗浄、排水口のヌメリ取りなどに使われます。
    • 塩素系漂白剤よりも穏やかな作用で、色柄物にも比較的使いやすいです。
  • 塩素系漂白剤(次亜塩素酸ナトリウム):
    • 強力な酸化力で、色素だけでなく、細菌やウイルスなどの微生物も酸化して不活性化します(殺菌・消毒効果)。
    • 衣類の漂白、浴室やトイレの漂白・除菌に使われます。
    • 強力なため、使用時には換気が必要で、色柄物には使用できません。酸性の洗剤と混ぜると有毒ガスが発生する危険性があります。
  • オゾン:
    • 強力な酸化力を持つ気体で、脱臭や除菌に利用されます。
    • 家庭用ではオゾン発生器などがあります。
  • 重曹(炭酸水素ナトリウム):
    • 研磨作用の他に、弱アルカリ性を示すため、油汚れなどを中和する効果がありますが、弱いながらも酸化作用も示します。

お掃除における還元の利用

還元反応を利用したお掃除は、酸化された汚れ(サビ、水垢の一部など)を分解するのに効果的です。還元剤は、汚れに電子を与えることで、汚れを元の状態に戻したり、水に溶けやすい物質に変えたりします。

主な還元系の洗剤と作用:

  • 還元系漂白剤(亜硫酸ナトリウム、ハイドロサルファイト、亜ジチオン酸ナトリウム、ホルムアルデヒドなど)
    • 酸化された色素を還元して無色にするため、漂白剤として用いられます。
    • 酸素系や塩素系とは異なるメカニズムで漂白します。
  • 金属磨き剤:
    • 金属表面の酸化物(サビやくすみ)を還元して、金属本来の輝きを取り戻します。
    • 製品によって成分は異なりますが、還元作用を持つ物質が含まれていることがあります。
  • 錆取り剤:(チオグリコール酸アンモニウムなど)
    • 鉄サビ(酸化鉄)を還元して、水に溶けやすい鉄イオンなどに変化させ、除去します。

具体的なお掃除の例:

  • 衣類のシミ抜き: 酸素系漂白剤は、シミの原因となる有機物を酸化分解して、色を落とします。
  • 浴室のカビ取り: 塩素系漂白剤は、カビの細胞を酸化して死滅させ、色も分解します。
  • シンクのサビ取り: 錆取り剤は、酸化鉄を還元して除去します。
  • 金属の磨き: 金属磨き剤は、金属表面の酸化物を還元して、金属本来の輝きを取り戻します。

このように、お掃除の様々な場面で酸化還元反応が活用されています。

皆さんが普段当たり前に使用しているカビキラー、ハイターなんかもそうですし、鉄さび落としなんかも酸化と還元の考え方に基づいて汚れが落ちているんですね。

実際の所こんな理論的な事なんて知らなくても理解していなくてもお掃除は出来ますし、洗剤も使えます。

ですので僕もBeクリーンの社員さんたちにこんな理論的な教育は一切行いません。

しかし世の中には「神様かよ!」って驚きの技術を持っているお掃除屋さんはいるんですね。

僕のお掃除の師匠の狐塚さん。僕が憧れるナオキンさん。消臭の師匠のカルモア村岡さん。RSAで講師を務められている、ぼーのさんタックさん、みなさん超一流の技術を持っており神様みたいな技術ですが、技術だけではなく理論もしっかり身に付けています。

技術を突き詰めようと思うと理論も必要になる時がくるのでは?と想像しています。(僕は神様の境地に達していないのであくまでも想像ですが)

これからもコラムで少しずつお掃除ウンチク。消臭ウンチクを増やそうと思うので、皆さんの中で興味のある方は是非読んでみてください。

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