お掃除とイオンの話し

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最近では100円ショップでも「アルカリイオン水」なんていうお掃除用品が販売されています。洗剤のパッケージでも陰イオン界面活性剤とか陽イオン界面活性剤とか記載されていたり。正直「なんのこっちゃい?」と感じる方も多いと思います。

お掃除屋さんであれば「イオン」について少し知っておくと洗剤の洗浄力をコントロール出来たり、汚れを落としやすくなったりメリットがあったりします。

そんなイオンについて簡単に解説してみます。

先述した通り、お掃除において、イオンは非常に重要な役割を果たしています。汚れを落としたり、洗浄効果を高めたり、水質を調整したりと、様々な形で関わっています。主なイオンの種類とその働きについて解説してみます。

1. 界面活性剤のイオン

洗剤の主成分である界面活性剤は、水と油のように混ざり合わないものを仲介する働きを持ちますが、その多くはイオン性を持っています。

  • 陰イオン界面活性剤(アニオン界面活性剤): 洗浄力が高いものが多く、一般的な洗剤によく使われます。水中でマイナスの電荷を帯びたイオンとして存在し、油汚れなどをマイナスの電荷で包み込み、水に引き離すことで汚れを落とします。
    • 例:石鹸(脂肪酸ナトリウム)、合成洗剤(アルキルベンゼンスルホン酸ナトリウム、ラウリル硫酸ナトリウムなど)
  • 陽イオン界面活性剤(カチオン界面活性剤): 柔軟剤や静電気防止剤、一部の除菌剤などに使われます。水中でプラスの電荷を帯びたイオンとして存在し、繊維のマイナスの電荷に吸着して効果を発揮します。
    • 例:第四級アンモニウム塩
  • 両性イオン界面活性剤(アンフォテリック界面活性剤): 酸性・アルカリ性どちらの環境でもイオンの性質を変えることができ、低刺激性の洗剤やシャンプーなどに使われます。
    • 例:ベタイン系界面活性剤
  • 非イオン界面活性剤: イオンではありませんが、親水性の部分と疎水性の部分を持つため、界面活性作用を示します。油汚れを水に溶かし込むのに役立ちます。(親水基、疎水基についてはそのうちコラムを書いてみようと思っています)

2. 水質に関わるイオン

水道水に含まれるイオンも、お掃除の効率に影響を与えることがあります。

  • 硬度成分(カルシウムイオン、マグネシウムイオン): これらのイオンが多い水(硬水)は、石鹸と反応して水に溶けにくい金属石鹸(石鹸カス)を生成し、洗浄力を低下させることがあります。
  • 軟水化: 硬度成分を取り除くことで、洗剤の泡立ちが良くなり、洗浄力が向上します。軟水器や軟水機能付きの洗濯機などが利用されます。

3. pH調整に関わるイオン

洗剤のpHは、汚れの種類によって効果が異なります。pHを調整するために、様々なイオンが利用されます。

  • アルカリ性イオン(水酸化物イオン: OH⁻、炭酸イオン: CO₃²⁻ など): 油汚れやタンパク質汚れなど、酸性の汚れを中和して落としやすくします。
    • 例:重曹(炭酸水素ナトリウムが水に溶けると炭酸イオンなどを生成)、セスキ炭酸ソーダ、苛性ソーダ(水酸化ナトリウムが水に溶けると水酸化物イオンを生成)
  • 酸性イオン(水素イオン: H⁺、硫酸イオン: SO₄²⁻ など): 水垢や石鹸カスなど、アルカリ性の汚れを中和して落としやすくします。
    • 例:クエン酸、酢酸、塩酸(トイレ用洗剤など)

4. 酸化・還元に関わるイオン

漂白剤などには、酸化力や還元力を持つイオンが含まれています。

  • 酸化力を持つイオン(次亜塩素酸イオン: ClO⁻、過炭酸イオン: CO₃²⁻(分解して過酸化水素を生成)、過マンガン酸イオン: MnO₄⁻ など): 色素や有機物を酸化分解し、漂白や除菌の効果を発揮します。
  • 還元力を持つイオン(亜硫酸イオン: SO₃²⁻ など): 酸化された汚れを還元して落とします。

5. キレート剤のイオン

金属イオンと結合して、その働きを抑えるキレート剤にもイオンが関わっています。

  • ポリリン酸イオン、エチレンジアミン四酢酸(EDTA)イオンなど: 硬度成分であるカルシウムイオンやマグネシウムイオン、鉄イオンなどと結合し、金属石鹸の生成を防いだり、金属による汚れを防いだりします。

具体的なお掃除の例:

  • 洗濯: 陰イオン界面活性剤が油汚れを落とし、炭酸イオンなどが洗浄力を助け、場合によっては軟水化剤が硬度成分の影響を抑えます。
  • 油汚れのひどい換気扇の掃除: アルカリ性の洗剤に含まれる水酸化物イオンなどが、油汚れを分解しやすくします。
  • トイレの水垢落とし: 酸性の洗剤に含まれる水素イオンなどが、アルカリ性の水垢を中和して溶かします。
  • 漂白: 酸素系漂白剤の過炭酸イオンや塩素系漂白剤の次亜塩素酸イオンが、色素を酸化分解します。

1. 界面活性剤のイオンと汚れの分離

界面活性剤のイオンは、水と油が混ざらない性質を利用して、油性の汚れを水中に分散させることで汚れを落とします。

  • 疎水基と親水基: 界面活性剤分子は、水になじむ「親水基」と油になじむ「疎水基」を持っています。
  • 油汚れへの吸着: 疎水基が油汚れに吸着します。
  • ミセルの形成: 多数の界面活性剤分子が油汚れを取り囲み、親水基を外側に向けて球状の集合体(ミセル)を形成します。
  • 水への分散: 親水基は水分子と相互作用するため、ミセルは水中に安定して分散し、油汚れが水と一緒に洗い流されます。
  • イオンの種類による違い:
    • 陰イオン界面活性剤: マイナスの電荷を持つため、マイナスの電荷を帯びた汚れや表面から反発しやすく、汚れを剥がしやすくします。また、泡立ちが良い傾向があります。
    • 陽イオン界面活性剤: プラスの電荷を持つため、マイナスの電荷を帯びた汚れや表面に吸着しやすい性質があります。柔軟剤は繊維表面に吸着することで、滑らかさを与えます。
    • 非イオン界面活性剤: 電荷を持たないため、硬水の影響を受けにくく、油汚れを水に溶かし込む力が強い傾向があります。

2. 水の硬度とイオンによる洗浄阻害

水道水に含まれるカルシウムイオン(Ca²⁺)やマグネシウムイオン(Mg²⁺)などの硬度成分は、洗浄効果を阻害することがあります。

  • 石鹸との反応: 陰イオン界面活性剤である石鹸は、硬度成分と反応して水に溶けにくい金属石鹸(石鹸カス)を生成します。これにより、石鹸の濃度が低下し、洗浄力が落ちます。
  • 合成洗剤への影響: 硬度成分は、一部の合成洗剤の洗浄力を低下させることもあります。
  • 対策: 水軟化剤(リン酸塩、ゼオライトなど)は、硬度成分と結合したり、イオン交換によってナトリウムイオン(Na⁺)と置き換えたりすることで、硬度成分の影響を軽減します。

3. pHとイオンによる汚れの化学分解

洗剤のpHは、特定の汚れを化学的に分解するのに役立ちます。pHは、水溶液中の水素イオン(H⁺)濃度を示す指標であり、酸性・アルカリ性の度合いを表します。

  • アルカリ性の洗浄:
    • 油脂の加水分解(鹸化): 強アルカリ性の水酸化物イオン(OH⁻)は、油脂を分解して水溶性の石鹸とグリセリンにします。これが油汚れを落とす基本的な原理の一つです。
    • タンパク質の変性: 高いpHは、タンパク質の構造を変化させ、水に溶けやすくします。血液汚れやタンパク質性の焦げ付きなどに効果があります。
  • 酸性の洗浄:
    • 金属酸化物の溶解: 水素イオン(H⁺)は、金属の酸化物(サビなど)や炭酸塩(水垢など)と反応して溶解させます。
    • ミネラル分の除去: 水道水に含まれるミネラル分が固着した水垢は、酸によって中和され、除去されます。

4. 酸化還元反応とイオンによる漂白・除菌

酸化力や還元力を持つイオンは、色素を分解したり、微生物を不活性化したりするのに役立ちます。

  • 酸化による漂白: 酸化剤から放出される活性酸素や次亜塩素酸イオン(ClO⁻)は、色素分子の構造を破壊し、色を消します。また、細菌やウイルスの細胞膜やDNAを酸化することで、除菌効果を発揮します。
  • 還元による漂白: 還元剤の亜硫酸イオン(SO₃²⁻)などは、酸化された色素を還元して無色にします。

5. キレート剤のイオンによる洗浄力向上

キレート剤は、金属イオンと結合して安定な錯体を形成する物質です。洗浄において、以下のような役割を果たします。

  • 硬度成分の封鎖: 硬水中のカルシウムイオンやマグネシウムイオンを封鎖し、界面活性剤の働きを阻害するのを防ぎます。
  • 金属イオンによる汚れの防止: 水道水中の鉄イオンなどが原因となるサビのような汚れの発生を抑えます。
  • 汚れの溶解促進: 金属イオンを含む汚れ(水垢など)をキレート化することで、溶解を促進し、除去しやすくします

分かりにくかったですかね?

雑にまとめるなら「普段汚れを落としている中で必ず何らかのイオンが働いているよ」「仕組みをちょっとだけ知っておくとお掃除が楽になるよ」って事でしょうか。。。。。

解説に出てきた「親水基、疎水基」という考え方と「ミセル」というワード、「pH」とかはまた別で解説するつもりですが、この辺りも覚えると更にお掃除が面白くなると思います。

油汚れを落としたいのに陰イオン界面活性剤を使うとちょっと効率が良くないよね。とかガラスを拭くならベタイン系界面活性剤の方が良いのかな?除菌もしたいから陰イオン界面活性剤を使ってみようかな。水の硬度が高い地域なのでキレート剤が入っている洗剤がいいかな?などなど現場状況を見て作戦を組み立てる場合なんかもイオンについて知っておくと便利かな?と思います。

Beクリーンのモットーの一つに「お掃除は化学だ」というのがあります。化学的に考えられる掃除屋さんが旭川に一社くらいあっても面白いかな?と思っています。

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